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コラム 2023 / 12 / 14

カーボン・ニュートラル最前線――タイの太陽光発電にみるグローバル・サウスの挑戦

カーボンニュートラル推進協議会 理事
吉國 眞一

1. COP 28 の評価……コップ(COP)の水は Half Full

 当初の予定より半日延長され12月13日までドバイで開催されたCOP 28 (気候変動枠組み条約第28回締約国会議)では、「地球の平均気温上昇を産業革命前対比1.5℃以内に抑える」という目標の達成が現在の各国のコミットメントを前提にしても困難という厳しい現状認識が示され、各国の努力と国際協力の必要性が一段と強調された。マスコミ等では、会議が石油産出国で開催されたこと、日本の化石燃料への対応が中途半端として、4年連続で気候変動対応が劣悪な「化石賞」を受賞したことなどをネガティブに捉える向きもある。

 しかし一方で、「2030年までに公正で秩序ある、公平な方法で化石燃料から脱却し、再生可能エネルギーによる発電容量を3倍に、エネルギー効率を2倍にする」という目標が110か国以上の賛成を得て合意されたこと、前回のCOP 27 で提唱された「損失と損害に対応する基金」の設立が具体化したことなどは画期的な成果といえよう。英語ではコップに水が半分入っている状態を楽観主義者は「半分満たされた」(half full)、悲観主義者は、「半分空」(half empty)と呼ぶという。今回の成果をhalf fullと評価して前に進むことが必要だ。

 こうしたなかでクローズアップされているのが、カーボン・ニュートラル推進についての負担を巡る、いわゆるG7を中心とする先進国と、主に南半球に属する途上国・新興国を指す「グローバル・サウス」の対立である。
 先進国サイドは人口が急増し、経済が高成長しながらエネルギー効率の低いグローバル・サウスの努力がカーボン・ニュートラル達成の鍵と主張する。一方、グローバル・サウスからみれば産業革命以降の気候変動の原因は大部分先進国にあり、脱炭素社会実現のための技術移転やファイナンスの供与について先進国が主要な責任を負うべきということになる。

 筆者は、COP 28 開催直前の11月末にグローバル・サウスに属するタイのバンコックを訪問し、同地の脱炭素への取り組みに接する機会があった。その際に感じたのは、先進国とグローバル・サウスが対立でなく、協調することに加え、公的部門と民間部門、銀行業とエネルギー産業といった様々なコラボレーションがカーボン・ニュートラル、さらにはより広い意味でのSDGsの実現につながるということだった。

2. タイは脱炭素の先進国

 グローバル・サウスの中で発展が目立つ地域ASEANの重要な構成国であるタイは、気候変動枠組み条約での国別排出削減貢献(NDC)として2050年までのカーボン・ニュートラル(二酸化炭素の排出量ゼロ)と、2065年までのネットゼロ(二酸化炭素だけでなく、メタンなど他の温室効果ガスも含め排出量ゼロ)を目指すと共に、「BCG(バイオ・循環型・グリーン)経済」を今後の経済・社会開発の重要 テーマとして掲げ、投資促進の優先分野としている。2022 年 11 月にタイ政府を議長国と して開催された APEC 首脳会議では、BCG 経済に関するバンコク目標23が採択された。

 このようにタイでは、再生可能エネルギーの普及が積極的に展開されている。特に、政府は太陽光発電プロジェクトを促進するための助成金や税制優遇措置により太陽光産業の成長を後押しし、投資を促進。国際的な視点から見ても、タイは太陽光産業において注目すべき存在となっている。ASEAN(東南アジア諸国連合)地域の再生可能エネルギーの普及でタイはリーダーシップを発揮し、地域全体での持続可能なエネルギーの促進に寄与しており、カーボン・ニュートラルの先進的な国となっているのだ。

3. PVとEVが牽引するカーボン・ニュートラル

 今回、筆者は太陽光最大手の(株)ウエストホールディングスが取引先の銀行等の役員を招待して、タイで同社が運営しているメガソーラの施設を視察するツアーに同行した。

 バンコックから約110キロ、車で2時間弱のゲートウェイ工業団地にある日本の大手製造業RESONACとSEIKOの工場の屋根およびRESONACでは敷地内の空き地にもソーラー・パネルを敷設し、各々3.5メガワット、1.7メガワットのメガソーラが稼働しており、両工場にクリーンな電力を供給している(後掲写真1、2参照)。
 いずれも同社が日本国内で展開するメガソーラと比べてもかなり大規模なものであり、土地(平地)が豊富で日照時間が長いというタイの立地条件を活かして日本企業による太陽光発電のフロンティアを広げたものだ。タイには日系企業が約5,900社と東南アジア進出日系企業の3分の1程度が集中しており、こうした太陽光発電を導入する機運が高まっている。
 RESONAC、SEIKOの両工場の所長が強調していたのは、脱炭素が世界共通の課題となり、かつ電気料金の高騰と、太陽光発電等の効率向上により、再生可能エネルギーの導入がかつてのような「きれいごと」でなく、企業経営の重要な要素になったということだった。

 この間、バンコックの市内を歩いていて感じたのは、東京ではまだ珍しい電気自動車(EV)を結構見かけたことである。実際、最新の数字で見るとタイの自動車販売に占めるEVの割合は10%を超えており、2~3%の日本を大きく上回っている。
 そしてEVの普及がカーボン・ニュートラルに結びつくためには、EVを動かす電力が化石燃料を使用しない「グリーン」でなければならない。そのグリーン電力の鍵を握るのが太陽光発電(PV)であり、PVとEVがタイのカーボン・ニュートラルを牽引しているのである。

写真1:Gateway 工業団地所在、RESONACの太陽光発電施設 3.5メガワット

写真2:Gateway 工業団地、SEIKOの太陽光発電施設 1.7メガワット

4. 対立でなく協調を……グローバル・サウスとの向き合い方

 前述のように、カーボン・ニュートラル推進の鍵は先進国とグローバル・サウスの対立を止揚して協調に転化させることであり、先進国の開発援助機関が大きな役割を果たすことになる。今回のタイ訪問で、日本のJICA(国際協力機構)に相当する米国の途上国援助機関「米国国際開発庁」(USAID)がタイを拠点として運営する、東南アジアのクリーンエネルギー・プロジェクト SPP(smart power program)の担当局長 Balaji氏と意見交換をすることができた。同氏はナイジェリアの電力セクタープログラムで、電力会社の送電網に頼らないオフグリッド電化プロジェクトを主導するなど、途上国のクリーンエネルギー事業支援に携わってきた。SPPにおいては、USAIDが民間のエネルギー企業、金融機関等のアドバイザーとして5年間で2千メガワット相当のクリーンエネルギー・プロジェクト、それに関連する20億ドルのファイナンス組成を目指すことが想定されている。

 この間、グローバル・サウスの盟主を自認する中国も、タイで同国のEVメーカーが現地生産開始を決定するなど、カーボン・ニュートラルに向けて活発な援助外交を展開している。こうした動きを米中の「覇権争い」にしてはならない。先進国、途上国共通の目標であるカーボン・ニュートラル達成のために、各国政府、民間企業、金融機関、国際機関等が各々の提供できる技術やノウハウを出し合って協力していくことが必要だ。電力を大量に消費する製造業の工場が温室効果ガスの重要な発生源であることを考えれば、日本企業の現地工場が日本の再生エネルギー企業と協調してカーボン・ニュートラルを追求することは、グローバル・サウスとの連携の理想的なあり方といえるだろう。

5. 日本の課題……再生可能エネルギーは、half full

 筆者は2000年代の前半、国際金融機関のアジア代表としてタイを頻繁に訪れていたが、今回の訪問でその変貌ぶりを強く印象付けられた。既に述べたEVに限らずバンコックの街には東京並みに高層ビルが林立し、物価も以前のような割安感はなく、品目によっては東京より高いものも散見された。一人当たりGDPも生活の実態をより反映する購買力平価(PPP)ベースでは日本の半分に迫っており、上場企業の部長クラスの年収は日本を上回ったそうだ。タイはもはや日本人が上から目線で論ずる対象ではなくなったのかもしれない。

 カーボン・ニュートラルへの対応でもPVとEVが牽引するタイに対して、我が国では最近再生エネルギーに逆風が吹いているようにもみえる。太陽光でいえば固定価格買い取り制度(FIT)の終了、自然災害による用地の崩落、風力でも環境問題といったネガティブな材料を目にする機会が増えている。

 しかし、既に述べたようにCOP 28 では「2030年までに再生可能エネルギー3倍」の目標が合意された。「3倍」は世界全体での話とはいえ、太陽光や風力が今後もカーボン・ニュートラル推進の重要な要素であることは疑いない。逆風を乗り超える鍵は、太陽光における伸縮自在なソーラー・パネル「ペロブスカイト」に代表される技術革新だ。かつて天然ガスの液化(LNG)技術で世界をリードした実績がある日本にとって、再生可能エネルギーは引き続きhalf full の分野である。